個人の生活の責任は誰がとり、国民はどんな生活を送りたいのか?経済格差の二面性

個人の生活の責任は誰がとり、国民はどんな生活を送りたいのか?経済格差の二面性


近年、先進国を中心に経済格差に関する関心が高まっています。各地で「1%と99%」のデモが起こり、トマ・ピケティ著「21世紀の資本」はベストセラーとなっています。ではそもそも「経済格差」とは何なのでしょうか?

経済格差とは、手に入れられるお金や高価値な物の量が人によって差がある、ということです。具体的に言うと、

・給料の差(労働所得格差)

・投資で得る利益の差(資産所得格差)

・家や車など持ってるものの差(資産格差)

※国別経済格差の状況(ジニ係数とは1に近いほど格差が大きいことを示します)

Reading Piketty In Japan

出典:Reading Piketty In Japan

Gini Coefficient World CIA Report 2009

出典:Gini Coefficient World CIA Report 2009

それでは具体的に経済格差が大きい状態と小さい状態のメリットとデメリットを見てみましょう。

※以下の具体例は民主主義・資本主義である政治体制を想定しています。

※これらは極端な例であり、実際は複合的です。

■経済格差が大きい状態

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経済格差が大きいということは人々の所得に違いがあるということです。人それぞれの価値観が違えば自然と生活に違いが生まれます。財産がたくさん欲しい人や良いサービスや良い商品がたくさん欲しい人はたくさん頑張り、少しでいい人は少し頑張る、というように個人が自由に生き方を選択できるようになっています。このような体制を「小さな政府」と言います。そのメリットとデメリットは以下になります。

・それぞれの立場にとってのメリット

全体:企業同士の競争や消費者からの要望によって商品やサービスの質があがり、様々な問題が解決されていく。

労働者:労働力の価値を高めれば高い賃金が得られる。例、長時間労働や高い技術

経営者:商品やサービスがたくさん売れれば、たくさん利益を得ることができる。

消費者:税金や医療負担が少ないため、所得次第で個人個人好きなように生活できる。

投資家:資産価値が高騰した場合、高いリターンが得られる。

有権者:経済的な力があればロビイングによって政策を変えることができる可能性がある。

家庭:親からの相続によって大きな財産を得ることができる。子どもに良い教育を受けさせることができる。

政府:政府の仕事を企業に任せることで税金の無駄遣いが無くなっていく。

国家間(貿易):関税を撤廃することで国を越えて良い商品やサービスが届けられる。自国の文化を輸出することができる。

※1946年から91年までにアメリカで発明されたもの

※1991年以降アメリカで発明されたもの

※賃金の高い職業ベスト100

※どの職業が一番満足できるか?

Which are the most satisfying occupations?

出典:Which are the most satisfying occupations?

・それぞれの立場にとってのデメリット

全体:政府による規制が少ないため、商品やサービスの売買や労働者への待遇が個人個人の倫理や道徳に委ねられ、様々な問題が発生する(例、環境問題)。貧困層が増えてしまうと購買力が落ちて商品が売れず経済が循環しなくなる。

労働者:教育を受ける費用が無ければ高い技術を得ることができない。高い技術が無ければ長時間低賃金で働くこともある。経営者によって待遇を不利にされてしまう。

経営者:昔から続いていた伝統的なお店が競争に負けて倒産する。倒産した際の政府からの補償が無い。

消費者:高齢になったり怪我や病気にあったときに、普通に生活できるお金が最低限必要になる。そのお金を稼いでおかないといけない。お金がなければ得られる商品やサービスが限定される。

投資家:バブル崩壊などによって資産価値が暴落するという高いリスクがある。例、リーマンショック

有権者:ロビイングの能力がなく少数派の場合、政治に対して意見が通らない。

家庭:相続される財産が少ない場合、多い家庭と比べて子どもへの教育方法の選択肢が少なくなる。

政府:規制緩和によって倫理や道徳を無視した社会問題が起きるリスクがある。

国家間(貿易):自分の国の伝統的な産業が衰退する。他国の文化が国内で強くなる。

※すでに嗜好用のマリファナを合法化した州と、2020年までに合法化しそうな州の数

Here's How Fast The Marijuana Industry Is Growing, In 5 Charts

出典:Here’s How Fast The Marijuana Industry Is Growing, In 5 Charts

※アメリカの売春

US and State Prostitution Arrests, 2001-2010

出典:US and State Prostitution Arrests, 2001-2010

※気候変動:数十年以内に干ばつのリスクがある地域

CLIMATE CHANGE: DROUGHT MAY THREATEN MUCH OF GLOBE WITHIN DECADES

出典:CLIMATE CHANGE: DROUGHT MAY THREATEN MUCH OF GLOBE WITHIN DECADES

※伝統的文化の衰退:業歴30年以上の企業の倒産は全体の30%

2014年「倒産企業の平均寿命」調査

出典:2014年「倒産企業の平均寿命」調査

※「200年以上の歴史のある企業」5586社の中、3146社が日本の会社(全体の56%)

※日本で虐待が発覚した母子家庭のうち約半分は生活保護受給者

児童相談所が対応する虐待家族の特性分析~被虐待児及び家族背景に関する考察

出典:児童相談所が対応する虐待家族の特性分析~被虐待児及び家族背景に関する考察

※所得格差は経済成長を損なう:格差変動(1985~2005 年)のその後の累積的成長(1990~2010 年)に対する 影響(推計)

出典:OECD:Focus on Inequality and Growth December 2014

■経済格差が小さい状態

Big Government

経済格差が小さいということは人々の所得にあまり違いがないということです。全員が頑張ることによって、多くの税金を納め、政府が全員に財産を分け合うことができ、全員が平等に最低限の生活を送ることができます。また全てを企業に任せずに政府が介入することで経済をコントロールできます。このような体制を「大きな政府」と言います。そのメリットとデメリットは以下になります。

・それぞれの立場にとってのメリット

全体:税金を徴収すればするほど、多くの人に共通するニーズに応えたサービスを政府側から提供することができる。

労働者:最低賃金が保証される。良い教育によって高い能力が得られやすくなる(公教育)。法律によって雇用者と平等の関係を結べる。例、同一労働同一賃金

経営者:公共事業への投資(財政政策)や助成金によって事業が行いやすくなる。

消費者、家庭:教育や子育て、医療などの社会保障が安くor無料で受けることができる。最低限の生活を送るのに必要とされている金額の現金を無条件で定期的に支給される(※ベーシックインカムという)。

投資家:金融政策(利子率の調整)によるインフレの際には資産の価値が上がる。

政府:金融政策や財政政策によって景気を調整することができる。国有化によって国民全員に平等に公共サービスを提供することができる。

国家間(貿易):関税をかけることで自国の産業や文化を守ることができる。

例えば、北欧諸国は税収がとても高く、医療や保育に力を入れることができている。そのため女性は子どもに縛られることがなく社会進出することができている。

※税収対GDP比

OECD Tax Database

出典:OECD Tax Database

※国別の投票率:国民は政府の税金の使い方を監視するのか

Society at a Glance 2011: OECD Social Indicators

出典:Society at a Glance 2011: OECD Social Indicators

※世界の乳児死亡率

The World Bank: Mortality rate, under-5 (per 1,000 live births)

出典:The World Bank: Mortality rate, under-5 (per 1,000 live births)

※世界の出生率

The World Bank: Fertility rate, total (births per woman)

出典:The World Bank: Fertility rate, total (births per woman)

※北欧諸国(濃い青)は男女平等度がかなり高い

World Economic Forum: The Global Gender Gap Index 2014

出典:World Economic Forum: The Global Gender Gap Index 2014

※国別の保育への公的支出

Public expenditure on childcare and early education

出典:Public expenditure on childcare and early education

・それぞれの立場にとってのデメリット

全体:政府から規制・管理される場面が多いため、自由な生活が送りづらくなる。政府の判断次第で税金の使い方をいくらでも変えることができる。例、議員の給料アップ

労働者、経営者、投資家:たくさん働いたり利益を出したとしても、税金によって徴収されてしまう。高賃金が働く理由になる人にとっては働く意欲が失われ、商品やサービスの質が低下し、技術革新が起きづらくなる。

消費者、家庭:自由競争に比べて、より良い商品やサービスが受けられなくなる可能性がある。

政府:民営化と比べて競争相手が存在しないため、公共サービスの質が低下する可能性がある。逆進的課税やタックスヘイブンによる税制の不完全さ。選挙立候補者が当選するために公共事業を公約にしてしまう。

国家間(貿易):関税をかけることで他国の良い産業や文化を輸入できなくなる。

※税金の種類は所得税、相続税、資産税、消費税、法人税など。特に収入が高ければ高いほど高い税率で課税されることを累進課税という。

※参考:トマ・ピケティはタックスヘイブン対策のために国際的な累進課税を課すべき、と提言している。

※輸出額:良い製品が生まれているかどうか。北欧諸国は低い。

Economy - major exporting countries (2012 rankings)

出典:Economy – major exporting countries (2012 rankings)

※例えばデンマークではジャンテロウという幸せに対する価値観が存在する。そのため競争で勝ったりお金持ちになったりすることに意欲がわきづらい。

1. Don’t think that you are special.(自らを特別であると思うな)

2. Don’t think that you are of the same standing as us.(私たちと同等の地位であると思うな)

3. Don’t think that you are smarter than us.(私たちより賢いと思うな)

4. Don’t fancy yourself as being better than us.(私たちよりも優れていると思い上がるな)

5. Don’t think that you know more than us.(私たちよりも多くを知っていると思うな)

6. Don’t think that you are more important than us.(私たちよりも自らを重要であると思うな)

7. Don’t think that you are good at anything.(何かが得意であると思うな)

8. Don’t laugh at us.(私たちを笑うな)

9. Don’t think that anyone of us cares about you.(私たちの誰かがお前を気にかけていると思うな)

10. Don’t think that you can teach us anything.(私たちに何かを教えることができると思うな)

11. Don’t think that there is something we don’t know about you.(私たちがお前について知らないことがあると思うな)

■まとめ

初めにも書きましたが、これらは極端な例であり、実際はもっと組み合わさっていて複雑です。ただし、上記はあくまで体制でしかなく、その体制をどう考えるかは個人の価値観や生活の工夫次第になります。以下、その主な論点になります。

1、格差が大きいことは問題なのか?

お金が無くても幸せだと思う人もいれば、お金があっても幸せじゃないと思う人もいます。お金が多いと行動の選択肢が増えますが、それが良いかどうかは個人の価値観次第です。実際、税金がとても高い国の幸福度がとても高いというデータも存在します。(幸福度が国全体で高くても国民全員が幸せとも限らない。)

※世界幸福度ランキング

World Happiness Report 2013

出典:World Happiness Report 2013

2、貧困は問題なのか?

最低限の生活を送れずにホームレスになったり餓死してしまったりする人々を、「かわいそうで助けてあげるべき」と思う人もいれば、「貧困になる前に対策をしなかった自分の責任だ」と思う人もいます。極端なことを言えば、たくさん本を読んだり、たくさん人の話を聞いたり、インターネットで調べたりして、未然に失敗を防ぐことも可能です。それでも防ぐことができない失敗が問題になります。

※世界の子どもの貧困率:働くよりも教育すべき

OECD Child poverty

出典:OECD Child poverty

※世界の高齢者の貧困率:働く力が弱い

OECD Old-Age Income Poverty

出典:OECD Old-Age Income Poverty

※災害によって貧困に陥りやすい国

The geography of poverty, disasters and climate extremes in 2030

出典:The geography of poverty, disasters and climate extremes in 2030

3、お金が無いと高い教育を受けられないのか?

最低限インターネットにアクセスできればe-Educationが存在します。意欲があればいくらでも勉強できます。職業の技術だけではなく、社会人としてのマナーや習慣だって検索すれば学ぶことができます。ただ問題は「インターネットで勉強することができる」という選択肢を知っていることが重要になります。工夫することで能力を得られるので、親以外にも工夫の方法を教える人やコミュニティが大事になります。

※50 Top Sources Of Free eLearning Courses

※参考:教育が重要である理由は、能力を得ることによって、高賃金の職業に就くことができたり、起業して事業を成功させてたくさんのお金を得ることができたりして、誰でも富裕層になることができる機会を平等に持てるからです。富裕層になれば相続する財産も増やすことができます。

4、富裕層の存在は問題なのか?

確かに富裕層は大きなリターンを得ています。トマ・ピケティは「資本収益率(r)>経済成長率(g)」と示したように、働いて得られるリターンよりも投資して得られるリターンの方が大きいと述べています。なぜかと言えば、高いリスクを支払ってきたからだと言われています。高いリスクを自分で責任をとったので、高いリターンを得ることができています。高いリスクを取ってでも高いリターンを得たいかどうかは個人の価値観次第です。また投資がなければ事業をスタートするための資金を得にくくなり、大きな事業を始めづらくなります。

※投資家のおかげで仕事が増えるアメリカ

Angel Investors – Critical Initiators of Startups and Job Creation

出典:Angel Investors – Critical Initiators of Startups and Job Creation

5、労働者と経営者はお互いに信頼できるのか?

労働者は、経営者が将来賃金を上げてくれると信じているから、労働者はたくさん働いて、企業の利益が上がり、実際の賃金が上がります。経営者は、労働者がしっかり働いて利益を上げてくれると信じるから、賃金を上げたり新たに労働者を雇います。

※各国の最低賃金の推移(ドル)

OECD Real minimum wages

出典:OECD Real minimum wages

■その他の観点

・上記以外の立場

経済格差は2つ以上のグループで起きるので、上記の立場に加えると、先進国と途上国、男性と女性、白人と有色人種、先住民と移民、家族内と家族外、都市と地方なども考えられます。

※男女の賃金格差:男性の賃金を100とすると女性はその約8割

The Simple Truth about the Gender Pay Gap (Spring 2015)

出典:The Simple Truth about the Gender Pay Gap (Spring 2015)

・テクノロジーの進化

また、テクノロジーの進化によって、現在存在している多くの仕事が自動化したり簡単になったりすします。デメリットは、仕事がなくなったり、低賃金化したりしますが、メリットとしては、もっと別のことに人間が時間を割くことができるようになり、働き方も変わります。

※自動化によってアメリカの仕事の約半分がなくなるかもしれない。

Job Automation May Threaten Half of U.S. Workforce

出典:Job Automation May Threaten Half of U.S. Workforce

※将来機械化される仕事の例

The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?

出典:The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?” OMS working paper by Dr. Carl Benedikt Frey & Michael A. Osborne

・NPO/NGOという存在

政府からの社会保障が足りない場合、中間層や富裕層からの寄付で運営されるNPO/NGOが頼りになることがあります。彼らのサービスによって教育や貧困などの問題が解決される事例も多く存在しています。

※アメリカの寄付市場

Charitable Giving Statistics

出典:Charitable Giving Statistics

※他にも論点や考え方があれば教えてください!